『ペンギン・ハイウェイ』の書評です。

ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦著 天才少年の躍動感あふれる日々 ★★★★

2010/6/16付

角川書店・1600 円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 才能豊かな人が活躍できる世界は案外少ない。よって通常の天才は、自尊心とはにかみを同居させながら、おもしろおかしい青春を送るのが常らしい。そう実感させるのが、ユーモアとペーソスに満ちた独特の青春小説で知られる、この作者だ。今回は何と小学校4年生の男子が主人公。父母と妹から成る典型的な郊外家族を描かせても、やはり一筋縄ではいかない。才能あふれる少年は、生意気ながら可愛(かわい)らしさ満点のキャラで、ついつい笑ってしまう。

 はたして平凡な郊外の町に、南極にいるべきペンギンが出現し、さらには未確認飛行物体やらドラゴンやら、非日常的な超常現象がつぎつぎと起こり、少年は懸命に観察記録をつけながら事件解明に明け暮れる。その躍動感あふれる日々の楽しいこと。

 昨今「郊外を生きる平々凡々な少年」が新聞や論壇で問題にされるのは、社会的な暗黒面を背負った事件とのからみが多い。しかし著者は彼らの世界に、衝撃的で取り返しのつかない事件は持ち込まない。ロマンチックで陽気な解釈を提示し、甘酸っぱい初恋の香りとともに、不思議な活力を与えてくれるのだ。

(ファンタジー評論家 小谷真理

日本経済新聞夕刊2010年6月16日付]
http://www.nikkei.com/life/culture/article/g=96958A96889DE2EBE0EAE3E2E6E2E3E7E2E4E0E2E3E29C9C99E2E2E3;p=9694E3E4E2E4E0E2E3E2E5E3E2E4

http://d.hatena.ne.jp/Tomio/