森見登美彦先生インタビュー(朝日新聞、2009年6月4日夕刊)

■現代のおとぎ話の雰囲気に

 森見登美彦さん(30)の連載小説「聖なる怠け者の冒険」が9日から始まる。正義の味方を名乗るタヌキのお面をつけた怪人と、なぜか怪人に“宿敵”と目をつけられた若い研究所員のどたばた騒ぎを描く。森見さんの初めての新聞連載小説は、謎の私立探偵も登場する大冒険活劇になりそうだ。(加藤修)

■京都の街が舞台

 森見作品の特徴は、作品世界が相互に連関していることと、京都の街を舞台にしていること。今回の作品でも柳小路の八兵衛明神などが登場する。

 「自分が歩き回っていた範囲が狭いので、どうしても先斗町や六角堂など京都の一部の地域ばかり描いています。今回はこれまで書いてない場所にしようと八兵衛明神を扱うことにしましたが、六兵衛、七兵衛もあると言われるなど、由来もよく分からないままです」

 京都の粋や伝統とは一見切れた現代人の視点で街を歩き回っているように見えるが、あり得べき街の本質がかえって見えてくることもある。

 「京都を舞台にすると、現実にはありそうになくとも、長い歴史のある街なら、あってもおかしくないと思える雰囲気が生まれます。今回の小説も、そういう雰囲気を利用して、街中に暮らす人たちの不思議なつながりを描いてみたい」

 物語は8月の3日間の出来事を描く予定。「研究所に勤める友人の話も聞いていますが、リアル過ぎず、現代のおとぎ話のような雰囲気になればと思います。怪人をマント姿にしたのは、子どものころに、祖父の旧制高校時代のマントをかぶって遊んでいたことがあったからです」

■冒険活劇めざす

 初期作品『太陽の塔』や『四畳半神話大系』の登場人物たちは、「へもい(イケてないんだけれど愛らしくて憎めない)」と女優の本上まなみさんに評され、山本周五郎賞を受けた『夜は短し歩けよ乙女』で女性ファンが急増した。近作ではタヌキの家族が主人公の『有頂天家族』や書簡体小説『恋文の技術』など作品の幅を広げている。

 「『美女と竹林』のときはサイン会に来てくださる方の大半が女性で戸惑ったけど、最近の『恋文…』のときは、結婚を公表したせいか、男女半々ぐらいになってむしろ安心しました。今回の作品の雰囲気は『有頂天家族』に近く、新聞連載らしい冒険活劇にしたいと思っています」

 さし絵のフジモトマサルさんとは雑誌や新聞などで一緒に仕事をしている。「かわいいけれど甘ったるくないのが魅力です。フジモトさんの絵を見ながら物語を進めていきます」
http://book.asahi.com/clip/TKY200906040184.html

登美彦先生の小説も、フジモトマサルさんのかわいいイラストも、楽しみですね(*^_^*)
http://d.hatena.ne.jp/Tomio/