森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)

  • とても面白かったです。第三章が人気のようですが、わたしは第四章の脳内会議のところが一番好きです。武者小路実篤「友情」のあの身勝手な妄想(怖いもの見たさでときどき読み返します)と比較してみると、やっぱり現代の男性だなぁと思います。
  • 大森望氏が『文学賞メッタ斬り!リターンズ』(p.95)で絲山秋子「袋小路の男」(『袋小路の男』所収、講談社)について「これ、男性読者が普通に読むと、ストーカーみたいな怖い女の話でしょ。」と話していたのとこの作品をほめちぎっているのと、ダブルスタンダードのような気がします。あちらはお互いに気を使ってああいう関係を続けているのであって、こちらの方がよりストーカー的だと思うのですが……。どちらもとても面白いので、未読の方は読み比べてみると面白いと思います。
  • ここ一年くらい、もともと苦手だったせいもあって、「恋愛小説」と呼ばれるものを読んでもどうも嫌な気持ちになってしまっていたのですが、登美彦センセイの作品の登場人物は紳士的なのでよかったです。昨年の本屋大賞候補の某作品などは「どうして校内で生徒にいきなりキスしてるの? 強制わいせつ罪でしょう?」「こういう作品が売れて、こういうものが恋愛だと思われるのって嫌だなぁ。どうして女性作家がこういう作品を書くかなぁ、男性作家ならまだわからないこともないけれど」と思っていました。自分がセクハラ(強制わいせつ)、ストーカー被害者だからかもしれませんが。普通に「お付き合い申し込み」をしてくれる男性がいいですね。
  • あ、そうだ、前に「愛苦しい」は「愛くるしい」が正しいのではないかと書きましたが、単行本では「愛くるしい」になっていてよかったです。