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- 「グッド・バイ」(『小説新潮』2010年3月号掲載)
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やあ、こんにちは。すっかり寝過ごしてしまった。なんという空だ。阿呆みたいに青いな。しかも寒い。超寒い。歩いている人がたいていアルカイックなスマイルを浮かべているじゃないか。顔の皮膚がつっぱらかるんだな。見てごらんよ。大文字山が寒々しい。一昨年の真冬に登ったことがあるけど、死ぬかと思ったね。あそこは吹きっさらしだからさ。冬に登るべき山じゃないのだ。
寒いし、歩きながら話そう。
ここを上っていったら銀閣寺の門前だ。お土産物屋がたくさん並んでる。三浦さんというステキに毒舌でぐうたらな女の子が働いているから、まずは彼女にご挨拶だ。学部のクラスが同じでね。その気怠く開いた唇から噴出する虚無的な毒舌は、つねに俺を魅了したもんだよ。
まずは彼女にサヨナラを言おう。
今日これから俺が片付けるサヨナラたちの第一歩。もう午後二時だ。時間がない。だから本当に大事な人だけを選ぶことにしよう。ついてくれば、俺がいかに愛されることに成功したかということが分かるはず。俺は本当に愛されてるんだよ。ウソじゃない。証明するよ。
ところで、君、知ってる?
阿呆神があくびをすると、京都の空はこんなふうに底が抜けたみたいに晴れるそうだ。底冷えする冬には阿呆神は四畳半に敷いた布団から外へ這い出ることができなくなるから、しょっちゅうごろごろしてあくびばかりする。だから冬には晴れの日が多いわけだ。……と、俺の知り合いが言ってた。
阿呆神はいずこにおわすか? 我々の皺深き脳の谷間だ。市内に棲息する幾万人もの阿呆学生たちの脳の谷間にはきわめて閉鎖的な四畳半があって、そこに阿呆神がおられる。立てこもっておられる。そのまま出てこなければいいのに。彼が活躍するほど、哀れな子羊たちは道に迷うわけだ。阿呆神の恐ろしさを知れ。彼が一つ屁をすると、我々の脳細胞が百個消えるらしい。
気をつけた方がいいよ。あはは。
さて。ついたついた。あそこの店だよ。招き猫のとなりであくびしてる女の子がいるだろ? あれが三浦さん。友人以上恋人未満という言葉で表現してみろ。ステキすぎて鼻血が出るね。その気になれば死ねるね。俺は高校時代まで、そんな繊細きわまる人間関係が自分の人生に出現するとは思わなかったよ。じつにステキな響きじゃないか。
うん。まあ世間一般から見れば付き合っているとは言えないかもしれない。しかしだね、少なくとも俺の中では付き合っているのも付き合ってないのも紙一重よ。つまりこれは形式の問題ではなくて、心の問題だからさ。そこらへん、分かるだろ? 俺も人間関係研究会にこの人ありと言われた男だ。女性とそれぐらいの微妙な関係にもつれ込むなんていうのは朝飯前なのだ。
でも俺はこの心理学を悪用しない。これが大事。じつに紳士なのさ。
君は猜疑心が強いな。なんで俺と彼女の関係を疑うの?
では、三浦さんにサヨナラを言いに行こう。
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- 「四畳半統括委員会」(『yomyom』vol.14掲載)
京都にうごめいているという「四畳半統括委員会」の噂。謎が謎を呼び、決して明らかにならないその正体とは――!?
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どちらも大変面白かったですよ(*^_^*)
こうしてリアルタイムで売れっ子作家の作品を追う楽しみが味わえるのは良いことですね。