『大人の発達障害−−アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本−−』(マキノ出版)

読みやすく丁寧な言葉遣いに暖かい視線でとてもよかったです。
特によかったのが、CASE5とCASE9です。おそらく、この部分は春日武彦先生の『ロマンティックな狂気は存在するか』(大和書房)のp.30「正常であることの証明もまた不可能である」に登場する男性A氏と春日武彦先生の診察室での問答から着想を得ていると思われます。わたしは春日武彦先生は大変面白いと思いますが、おそらく発達障害にはやや疎く*1、また他人に対する許容範囲が狭いほうだと思うので(その部分がわたしにとっては「世間のちょっと意地悪な方々の思考を知る」ことが出来て役に立つのですが)、この部分はたいへん重要だと思いました。
件の箇所は、備瀬先生・春日先生の両方とも「会社の上司から(正常性やコミュニケーションについて)疑問を呈されたことに非常に混乱して診察室にやってきた中年の男性会社員と精神科医との問答」という形式です。ちょっと長いのですが、この本から引用してみます。

 ここで挙げた光則さんは、おそらく野村さんの言葉にいたく傷ついたのでしょう。
 それは、そうかもしれません。私たちも自分の身に置き換えて考えてみるとどうでしょうか? 自分ではコミュニケーションの問題があると感じていない場合、突然、他人から「君のコミュニケーションには問題がある!」と不機嫌そうに伝えられたら、どう感じるでしょうか?
 もしくはなんとなく他人とうまくコミュニケーションが取れていない、ということを感じているが、自分の問題として認めたくない場合、「あの人は、コミュニケーションがヘタだから」という陰口が耳に入ったらどう感じるでしょうか?
 光則さんは、いたく傷つき、そしておそらく混乱したのだと思います。そして、「自分にはコミュニケーションの問題はないはずだ」という問題点を否認する信念にこだわり、さらにその確認を取るために私のところへ相談に訪れたのでしょう。
本人が傷つき、混乱し、その結果、自身の問題点を的確に把握して、解決のための工夫をする機会を逸してしまったということは、それだけでも2次障害といえます。
 PDD*2の行動特徴がある人たちの長所を発揮してもらいながら、共に生きていく必要がある私たちは、彼らの2次障害をできるだけ防いでいく必要があります。そのためにできることは、「まず、理解すること」につきると思うのです。(p.69)

先日、わたしは春日武彦先生の『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎新書)を読み、その中で観察され疑問に思われている登場人物に対して「これは虐待を受けた方ではないのか」という感想を持ったのですが、やはり発達障害や虐待は軽微なものも含めればけっこうあるのだろうなと思いました。備瀬先生のこの本では、2002年に文部科学省が行った全国5地域の公立小学校(1〜6年)および公立中学校(1〜3年) の通常学級に在籍する児童生徒4万1579人を対象として行われた調査で「通常学級で知的発達に遅れはないが、学習面や行動面に著しい困難を示す」と担任教師が回答した児童生徒は6.3%だったとあります。この数字は、およそ30人に1、2人という割合です。かなり多いですね。わたしも変わった子だったので、この中に入っていたかも?

吉祥寺クローバークリニック
http://www.kichijoji-clover-clinic.jp/
ブログ「うつ、軽症うつ、大人の軽度発達障害・AD/HDの診察日記」
http://blog.livedoor.jp/tetsubise/

*1:多くの精神科医がそうだと思いますが

*2:pervasive developmental disorder:略してPDDといいます、もしくは広汎性発達障害