森見登美彦先生インタビュー(東京新聞、2009年5月2日、土曜訪問)。

  • とてもよいインタビュー記事を発見しましたのでご紹介いたします。
    • 問題があるかもしれませんが、あまりによかったので全文引用させていただきました。お読みいただくと、先生のお人柄のよさや恋愛のお話などに胸がきゅん♪となりますよ。また『恋文の技術』を読みかえさなきゃ(*^_^*)

妄想力が生むおかしみ 男子の恋を書簡体小説に 森見登美彦さん(作家)

いま、日本で文通をしている人は、どれくらいいるだろうか。作家の森見登美彦さん(30)の新作『恋文の技術』(ポプラ社)は、主人公が出す手紙だけがひたすら並んでいる小説だ。

 京都の大学から石川県の片田舎にある「能登鹿島臨海実験所」に送られ、男の先輩と二人だけでクラゲの研究をすることになった大学院生の守田一郎。寂しい生活のつれづれに「文通武者修行」と称して、仲間たちに手紙を書きまくる。ゆくゆくはいかなる女性も手紙一本で籠絡(ろうらく)できる技術を身につけると宣言するなど、とぼけた妄想が笑いを誘う。

 「さっき別のインタビューを受けてきたので、少し声がかれているかもしれません」。レコーダーを置いたら、のどを触りながら申し訳なさそうにこちらを気遣った。待ち合わせのカフェに姿を見せたのは、約束の約二十分前だった。

 ひょろりと高い背をかがめ丁寧に頭を下げる。くたっとしたシャツ、肩には黒い大きなトートバッグ。学生のような雰囲気も漂う。

 小説のヒントとなったのは、以前から愛読していたという夏目漱石の書簡集。「出した手紙が時系列に並ぶだけなのに、漱石をとりまく人間関係が、だんだん分かってくるのが面白い。そのまま小説として、現代に移してみようと思ったんです」。優しい関西なまりで静かに話す。

 主人公・守田の手紙は、全部で百通を超える。相手がどんな返事を書いてきたかは描写されず、想像しながら読むことになる。友人にもっともらしく恋のアドバイスをし、女性の先輩に遠慮がちに近況を聞く。家庭教師先の少年には<りっぱな大人>について、偉そうに語る−。相手によってがらりと変わる手紙の調子から、それぞれの人間性が徐々に像を結んでいく。

 守田のように女性に縁がない男子学生の悶々(もんもん)とした日常は、最も得意とする題材だ。京都大大学院農学研究科在学中の二〇〇三年、学生生活を虚実交えて物語にした『太陽の塔』でデビュー。この中に、<大学に入ってから三回生までの生活を一言で表現すれば、「華がなかった」という言葉に尽きるであろう>というくだりがある。

「実生活もこれと似たような、実質的には何もしない日々でしたね。出来事というものはほとんど全部、頭の中で起こっていて。下宿で男だけでぐだぐだと酒を飲んで、ふわふわと妄想を膨らませていました」

 こうして育てた「妄想力」を武器に、主に京都を舞台として、独自の小説世界を作り上げてきた。

「小学校三年生のときから小説家になりたくて、お話を書いては母や妹たちに見せていたんですが、人を笑わせるような文章に目覚めたのは大学時代ですね」

 〇七年にはファンタジー色が強い『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞。出す作品は、いずれも大きな話題を呼んでいる。

 日常使わないような古風な言い回しをちりばめた語り口も森見さんの小説らしさだ。「おかしさを引き立たせるためにわざと尊大な書き方をしたり、古い言葉で雰囲気を出したり。効果を考えて使っています」

 守田が出す手紙も、<何の実りもない学生生活を満喫したまえ><もはやお忘れでありましょうか>などと、漱石の書簡を彷彿(ほうふつ)とさせる物言いだ。

 「主人公には、時代錯誤な部分を取り入れたいんです」。メールではなく文通を選ぶ守田の行動が、まさにそうだ。「時代の最先端では、おかしみのようなものは生まれてこない。単なる変な人ではなく、主人公なりの美学なども表したいんです」。絶妙なバランス感覚で、読みながら笑いが込み上げてくるような作品を作り上げる。

 知的なユーモアを感じさせる文章には、女性のファンも多い。昨年行われたサイン会では、女性の行列にびっくりしたという。学生時代からは想像もしていなかった人気に、戸惑いも見せる。

「まさか、こんなことになるとは。こんな売れ方をしてはいかんのでは、と思いましたね。喜んでもらえるのはうれしいんですが…女性がうわーっと来ると、どうしたらいいのか。老若男女まじっていたほうが、安心します」

 図書館勤めの傍ら、週末を中心に執筆し、締め切りに追われる日々を送る。この一月には、自身のブログで結婚を発表した。

 恋愛の最中は文通していたんですか−。

「遠距離だったので手紙のやりとりは結構しました。かなり量が多い文章をワープロで打って送ったり。あ、でも告白は恋文でしたわけじゃないですよ。だから実は、今回の作品を書きながらずっと考えていたんです。好きな人を振り向かせる手紙は、どうしたら成功するんだろうって」 (中村陽子)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/doyou/CK2009050202000198.html

http://d.hatena.ne.jp/Tomio/